引用、その21

ふとんのなかにいるまま、窓にあたっては流れるしずくに目と耳をよせる。まぶた深くにある滝をのぞいたように、銀のすじが奥まっていく。骨すじに響きがしみて、しずまる。東京は、慈雨の季節になっていた。
 とおく近く、天の鳴らす無数の太鼓は、むずかしい拍子をかるがると打ちあい、言葉はずっと追いつけずにいる。この雨音に近づきたくて、たくさんの祈りの詩や物語がうまれた。

石田千著/しろい虹/ベストセラーズ