引用、その17

asps2007-04-28

 その平和な風景の中には、暴力の残響のようなものが否定しがたくある。僕にはそのように感じられる。その暴力性の一部は僕らの足下に潜んでいるし、べつの一部は僕ら自身の内側に潜んでいる。ひとつは、もうひとつのメタファーでもある。あるいはそれらは互いに交換可能なものである。彼らは同じ夢を見る一対の獣のように、そこに眠っているのだ。

―そう、ひとつだけ確実に僕に言えることがある。人は年をとれば、それだけどんどん孤独になっていく。みんなそうだ。でもあるいはそれは間違ったことではないのかもしれない。というのは、ある意味では僕らの人生というのは孤独に慣れるためのひとつの連続した過程にすぎないからだ。だとしたら、なにも不満を言う筋合いはないじゃないか。だいたい不満を言うにしても、誰に向かって言えばいいんだ?

(辺境・近境/村上春樹/新潮社)