引用、その7
たくさんの死体を見たこの夏で、おれが得たのは簡単な真実ばかり。それは以下のとおり。①死んだ人間より、生きてる人間のほうが魅力的。②心はいつも外の世界で自己を実現しようとする。③おれたちはどれほど些細な理由でも自殺できるし、その反対にどれほどくだらない目的で生きていくこともできる。
ガラスの粉をまぶしたように涼しさを増した風のなか、ウエストゲートパークのベンチにしっかりと座る。空の遥か高みには、ブラシで描いたような薄い雲。懸命にミズカが授業を受けているそのあいだ、おれは知的向上などかけらもせずに、口を開けて池袋の空を見あげている。この瞬間の生の自由と快適さ。
これも確かに生きるよろこびのひとつだよな。
(反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパークⅤ/石田衣良著/文藝春秋)