感情売り場

広場は喧騒に包まれていた。僕は完全に人に酔っていた。右にも左にも上にも人がいるから、仕方なく下を向いていたのだけど、小さな男の子が前の人の足の間から頭を出した瞬間、僕は目をつぶった。そうしたらここがどこだかわからなくなった。
「悲しみはこちらになります、あらかじめコインを用意してお待ちください」
前の方にいる店員が叫んでいた。そこで僕は目を開いた。だって僕が欲しいのは悲しみじゃない。この列は僕が並ぶべき列じゃない。僕の並ぶべき列はいったいどれなんだろう。しばらく目を瞑っていたせいでわからなくなってしまった。
とりあえず僕は隣の列に自分の体を捻じ込ませた。前の貴婦人が僕を嫌そうな顔で一瞥したけれどそんなこと気にしちゃいられない。だって僕は今日中にあれを手に入れなければならないんだ。そうしないと僕は、もうこの街にいられなくなってしまう。
「喜びはこちらになります、一列にお並びください」
前の方にいる店員の声がやっと聞こえた。けれど僕が欲しいのは喜びでもない、嗚呼この列も僕が並ぶべき列じゃないんだ。はあ。それにしてもうるさいなあここは。