引用、その2

asps2005-09-02

「人は誰でも、その時が過ぎてしまへば間もなく忘れるやうな、乃至は長く忘れずにゐるにしても、それを思い出すには余り接穂がなくてとうとう一生思ひ出さずにしまふといふやうな、内からか外からかの数限りなき感じを、後から後からと常に経験してゐる。多くの人はそれを軽蔑してゐる。軽蔑しないまでも殆ど無関心にエスケープしてゐる。しかしいのちを愛する者はそれを軽蔑することが出来ない」
「一生に二度とは帰って来ないいのちの一秒だ。おれはその一秒がいとしい。ただ逃がしてやりたくない」

(一利己主義者と友人との対話/石川啄木
(この引用は、森本哲郎著「ことばへの旅・2」に基づいたものです)