記憶力

記憶力低下警報発令中!
覚えておきたいのなら、書き留めておくことは、何を差し置いても重要だ。
去年の夏を書かなかったことにより、去年の夏の幾らかは、書いた場合よりも抜け落ちてしまった。今年の夏も、きっとそう。

書かなくても覚えていることがある。
冬が近づいて思い出すのは夜のことだ。
目黒川の流れる夜とか、カフェで過ごした夜とか、いろんな夜のこと。
無作為な記憶に、喜ばしい瞬間はひとつもない。
喜びはいつだって作為的だ。
でもまたあの時みたいに時間を過ごしたい、と回想する「あの時」は、どうしてだか無作為で、その瞬間の私の顔は、笑顔なんかではなく、ただしずしずと、瞬間を受けとめる顔を、きっとしている。