引用、その15

なぜ、ここでそのことを書く気になったのか、よくわかりません。それはそれとして、このところ自分に関することが自分の意思や論理以外の要素で決まるのが心地よく思えるのです。朝、いつもの電車に乗り遅れたような時、不思議な解放感を味わいます。どうしようかと思っていることが自分で結論を出す前に決まってしまうと、それでよかったのだという気がして安心します。何も全部を自分で律することはないのだという、一種無責任な考えが頭の上をひらひらと飛びまわっているみたいです。

(真昼のプリニウス/池澤夏樹著/中央公論社