ニルス=ウドの言葉

花でえがく。雲で彩る。水で文字をつづる。五月の風や、一枚の落ち葉がたどる道を記録しておく。
 雷雨にそなえて働き、氷河を待ち受ける。風をたわめ、水と光をととのえる。新緑の郭公の呼び声。その郭公が飛ぶ目に見えない軌跡。空間。
 一頭の獣が吼える。沈丁花(セイヨウオニシバリ)の苦い味。小さな沼を埋め、蜻蛉も埋葬する。霧と黄色いヘビノボラズの香りに火をともす。
 ざわめきと色と匂いがひとつに結ばれる。青々とした草。森がひとつ、草原がひとつと数える。
 1972年:感動はいたるところに偏在しています。リアリストとして私がそれを拾い出し、匿名性から解放しさえすればよいのです。ユートピアは、どの石の下にも、どの葉の上にも、木の後ろにも、雲や風の中にもひそんでいます。春分秋分の日の太陽の軌道、菩提樹の葉の上にいる甲虫のごく小さな生息空間、赤く照り映える楓、森の渓谷にただよう草の匂い、アオウキクサの中から聞こえる蛙の鳴き声、チキチキバッタが飛ぶ時の赤いきらめき、谷川沿いに咲く雪割草の香り、雪に残る獣の足跡、鳥が横切る森の空地、木にあたる突風、木の葉の上で踊る光、大枝から大枝へ、小枝から小枝へ、葉から葉への果てしなく複雑なつながり・・・。
 人間の五感によって捉えられるものはすべて関わってきます。自然空間を、見たり、聞いたり、匂いを嗅いだり、味わったり、触れてみたりして体験するのです。そして、生きた三次元の自然空間に最小限の手を加えて自然の鍵を開け、再編成し、緊張状態を作り出します。それは期限つきの再編成。いつの日か、手を加えた跡は消え去り、あとかたもなく自然によって復元されるでしょう。

ニルス=ウド―自然へ

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