引用、その9

asps2006-11-13

虹を作りながら、泥の水たまりに映る美しい空、流れて行く雲を見ながら私は思った。
こういう小さな、笑ってしまうようなことが、人生を作る細胞だと。ていねいに感じることができるコンディションでいることはむつかしい、そのためには私には、空や、草花の息吹や、土の匂いがとても必要だ。それで私は裕志に、旅行にでも行こうか、と言いたいと思った。なにかいい景色でも見ないと、この気持ちが漬物みたいに濃く漬かったまま固まってしまう。温泉にでも行って、濃い緑や谷を見ながら露天風呂に入って、まずいおさしみやしし鍋を文句を言いながら食べたら、元気になるかもしれない。

(ハネムーン/吉本ばなな著/中公文庫)