わすれないように

一生包み続けたひと
影と光を掴もうとしたひと
心からまわりに感謝するひと
56億7千万年後を待って眠ったひと
春は花粉症、目が開きづらいけれど、
そこにはいろんな色があって
息づかいがあって
花やら風やらが、おいでおいでと、誘っている


インド料理屋にいった。
そこは、日本にありながら、まったくもうほとんどインドで、壁や匂いや人や食べ物、もうほとんど純然たるインドで、
ただそこで唯一日本を強調するのは、テレビから流れる日本列島を赤く縁取った津波注意報だった。
延々と繰り返される日本各地の津波を警告するメッセージを、インド人の店員さんが、午後の気だるい空気を漂わせながら、じっと見つめていた。
カレーとナンに満たされて笑顔の私に、丁寧に何度も水を注いでくれたやさしい顔の店員さんが、テレビを指しておもむろに「タイフウ?」と聞いたのだった。
私は「大丈夫、ここには来ない。」と英雄のように言い切って、
ガラス張りの店内には外からの太陽が降り注ぎ、
そこには、インドとも、日本とも言えない、ただ春の満腹の昼間が、ひろがっていた。

おいでおいでの、春ですね。