静かな気持ち

「袋小路の男」を読んだ。はてのない、おぼれるほどの、しずかで、たからものみたいな、片想いの話。こんなに不幸なことも、こんなに幸せなことも、こんなに一方的で、ひとりよがりで、自分で自分を縛るようなことも、他にないんじゃないかしらって。世界が終わってもいいぐらいの喜びを感じることも、隣に座っただけで胸がどきどきするようなことも、他にないんだろうに。
端から端まで思い込みで、二つの思いが交差しないところが、私には、キラキラ輝いているように見える。

カウンター席であなたがシェーカーを振ったり、きれいな手でライムをスライスするのを見ながら、空白の期間、どうして私はここへ来なかったのだろうと考えた。あなたに会うかもしれないことは会えないことよりも怖かったのかもしれない。